エンドオブライフケア基本情報

エンドオブライフケアという言葉

 ターミナルケア、ホスピスケアという言葉は馴染みが在ると思いますが、エンドオブライフケアという言葉は、急速に普及してきたものの、なじみがないかもしれません。終末期医療ケアが「がん」を対象に発展してきた背景がありますが、先進諸国では高齢社会を迎えるにあたりよりよい死を支えるケアが、慢性疾患や高齢者といった対象に提供する必要性が高くなったことが背景にあります。1990年代より、海外の論文でend of life careという言葉が頻繁にみられるようになっています。
 さまざまな定義がありますが、看護学の研究者らは、以下のように定義しています。

『診断名、健康状態、年齢に関わらず、差し迫った死、あるいはいつかは来る死について考える人が、生が終わる時まで最善の生を生きることができるように支援すること』(Izumi.S.,Nagae H.,Sakurai.C.,et.al.:Defining end-of-life care from the perspectives of nursing ethics. Nursing Ethics.2012;19(5):608-618.)

 慢性疾患では、たとえ糖尿病の診断期であっても死をイメージして不安が強い方もいます。入院治療を繰り返す相当状態の悪い心不全の方でも、まったく死を意識していない方もいらっしゃいます。慢性病者にとっての死への意識の持ち方は、がんとは異なり多様です。個々の死への意識を踏まえて、最期までよりよい人生を送ることを支えたいものです。

日本の状況 ー人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドラインを巡って

 2007年、厚生労働省は、終末期における医療の決定プロセスに関するガイドラインを発表しました。ガイドライン
 その要点は、

  • 十分な情報提供に基づき患者が医療従事者と話し合うこと
  • 患者本人による決定を重要原則とすること
  • 医療行為の開始・不開始、変更、中止などはケアチームで医学的妥当性と適切性を慎重に判断すること
  • 医療・ケアチームによる可能な限りの症状緩和と、患者・家族の精神的・社会的な援助を含む総合的な医療ケアを行うこと

です。
 このガイドラインの医療者の認知率は現状では高くはありません。(人生の最終段階における医療に関する意識調査)。また、ガイドラインの抽象度が高く、現場で、このガイドラインをどのように反映させていくかについては、個々の現場で検討が必要だといえるでしょう。
 平成26年3月、厚生労働省は「終末期医療」という表現を、「人生の最終段階における医療」という表現に改め、このガイドラインも「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」と名称変更がされました。終末期という言葉のもつマイナスイメージから、市民に広く受け入れられるようになるということがねらいにあるようです。
 平成26年度からは、厚生労働省事業として、国立長寿医療研究センターが主体となり人生の最終段階における医療体制整備事業が開始されました。初年度は10医療施設、平成27年度は在宅診療所を含む5施設が事業参加施設となりました(参考リンク
 今後も一層の高齢化がすすみ、医療者はもとより市民の一人一人が、「死」について向き合い、考えていくことが重要な時代となりました。

エンドオブライフケアが必要な患者の状態(指標)

 予後予測が難しい慢性疾患に対しても、適切なケアを提供するための指標があります。イギリスのゴールドスタンダードでは、臨床家が早期に患者のエンドオブライフケアの必要性に気づくために、指標を示しています。日本の患者さんでも、適用できそうです。
NHS Gold Standard

Step1:その患者が数か月、あるいは数週間、数日のうちに亡くなったとしたら、あなたは驚きますか?

(直感的な臨床的な判断を問います。もし、あなたが、驚かないのであれば、患者のQOLの改善と将来の悪化の準備のために、どのような対策をとるべきかを検討すべき)

Step2:一般的な指標

  • 活動量の低下(パフォーマンスステータス(PS)の低下、日常生活活動の依存の増大)
  • 致死的な重大な併存疾患
  • 身体状態の機能低下、介護量の増加
  • 疾患の進行ー不安定な、悪化する症状による消耗
  • 治療の反応性の低下、回復の遅延
  • 積極的治療の選択肢がない
  • 過去6か月間の体重減少(>10%)
  • 予定外に繰り返される急性増悪による入院
  • 転倒、死別、老人ホームへの入居
  • アルブミン値<25g/l
  • DS1500対象(イギリスの医療保険システム)

Step3:焦点化臨床指標8

例)COPD 重篤な状態( FEV1<30% )
COPDによる入退院の繰り返し(1年間に少なくとも3回)
在宅酸素療法の適用
MRCグレード4/5
右心不全の兆候
合併症(貧血等)
過去6か月、6週間以上のステロイド全身投与

慢性疾患に関連するエンドオブライフケアに関するガイドラインや立場表明

終末期の医療ケアの意思決定を支える看護師の能力の一つとして、組織の方針や実践ガイドラインに応じていく力を挙げています(L.Briggs,2002)。昨今の日本の情勢は以下の通り。ネット検索で全文見ることができます。人生の最期に、「命」と「治療」の問題をどのように考えるのか、国や学会の方針が示されています。

2001年 「高齢者の終末期の医療およびケアに関する日本老年医学会の「立場表明」(日本老年医学会)
2007年 終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省)
2008年 終末期医療に関するガイドライン(日本医師会)
2009年 終末期医療に関するガイドライン~よりよい終末期を迎えるために~(全日本病院協会)
2010年 循環器疾患における末期医療に関する提言
2012年 高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」
2012年 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として」(日本老年医学会)
2014年 維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」(日本透析医学会)
2014年~ 人生の最終段階における医療体制整備事業(厚生労働省)
2015年 人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(名称改編)(厚生労働省)

2018年3月

2018年4月

「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂(厚生労働省)ーACPの考え方が反映、本人の意思を推定できるものとの話しあい、介護施設や在宅でも行うことが盛り込まれた

末期心不全 緩和ケア診療加算対象に。(要件:適切な治療がされている、NYHAⅣ以上で頻回(持続的)な点滴薬物療法を必要とする状態。心不全による入退院が2回以上/年、左室駆出率 20%以下、医学的に終末期であると判断される)

L.Briggs:The nurse's role in end-of-life decision-making for patients and families,Geriatric Nursing 23(6),302-310,2002.